やじろぐ7

40代半ばの妻子持ちがゲームしながら解脱を目指すブログ

あの日怒鳴られていた若者を思う

ずいぶん前の事を思い出していた。「おい!墨つぼ持ってこい!」と怒鳴る声があの日、工場の一角に聞こえた。怒鳴ったのは、外注さんだった。うちの社員じゃなくて、大きい工事の時とかに手伝ってくれる協力会社の人たちで、その時の形としては下請けさんと言ってよかったのかな。30歳くらいのその人が5mくらい離れたところから、自社の部下であろう若者に怒鳴っていたのだ。「墨つぼだよ!そこにあるだろ!!」怒鳴られて萎縮した若者は慌ててキョロキョロしていた。

工事の真っ最中、資材のほか工具はたくさん置いてあった。グラインダー、ラチェット、三角定規…。なんかカッコいい形の墨つぼは、確かに若者の足元近くに置いてあった。そして、俺がその時見た範囲では、その一つしか無いようだった。若者は言われた道具がどれなのかわかっていないようだった。わからないなりに、何かを探していたのだ。慣れない他社の現場でだ。

「これだよ」近くにいた俺は指差して教えてあげた。若者はお礼もそこそこにそれを持って行った。怒鳴った上司だか先輩だかはブツブツ言っていたようだった。よかった、飛び火して俺まで怒られやしないかとヒヤヒヤしたのだ。他人が怒られてる時に自分も怒られるんじゃないかとビビるくらいの小心さは俺も持ち合わせている。

今日は何でもないそんな日常の1シーンを今日は思い出して、何度も考えていた。あの若者はその後、成長できたのだろうか?

あの時のあの若者は、勝手な想像だが入社して全く間もない頃だったのではないだろうか。他社に応援に行くのに、必要な基本の道具さえ知らない状態で来てるのは何だかおかしい。その上、上司(たぶん上司)が、部下であろう若者がどれくらい知識があるのかも把握してないわけだ。まだ人間関係ができていない事が伺える。

そして、あの上司が怒鳴ったことは、若者に何をもたらしたんだろうか?普通に考えればあんなに怒鳴る必要はない。怒鳴ったのは、おそらく機嫌が悪かったからだ。理由としては「その若者に対して怒っていたのか、それ以外か」に分けることはできる。後者だと詳しい理由は全く推測できないが、前者である場合は、上司と若者の関係が悪かったことになり、上司が若者を気に入らなかったということになる。俺の妄想力によると、若者がコネ入社で気に入らないか、仕事ができない奴だから見下しているか、あるいはその両方かだろう。

俺ならもっと優しく接するでろう事は間違いないのだが、あの上司が教えるのと俺が教えるのと、あの若者はどっちが伸びたんだろうかな、と想像する。正直、厳しく教えられた事は、頭に残って身についている。でもそれは俺の経験上そうであるだけで、おそらく世間一般でもそうなんだろうとは思っているけれども、あの若者もそうかはわからないものだ。

不思議なものだ。優しく順序よく教えてもらったことももちろん身についているけど、厳しく怒られて教えられた事はより身について、忘れずに気をつけていて、どこでもその能力を発揮できている。あの若者だって厳しく叱られるうちに、成長していったかもしれない。そうであって欲しい。

俺が優しくするのは自分がそうしたいからであって、俺はいつも自分がしたいようにしていると思う。誰か、たとえば若者のためだとか、成長するようにとか、そんな利他的な気持ちでは無い。世界をより良くするのはどっちなのか?俺は優しいだけじゃダメなんじゃないだろうかと思うのだ。