「あ、声が被らないようにお願いします」と言われたあの日の事を思い出す。街頭インタビューを受けた時だ。質問をされて、すぐ答えたらそう言われた。そりゃそうだ、音声が被っていたら放送で使えない。
相手が話し終わらないうちに答えてしまう癖が自分にはあるんだろうかと思い悩んだが、よく観察するとめちゃくちゃたくさんの人が、他人の話を最後まで聞いていないようだ。人の話を遮って話を始めている。最後まで聞かずとも理解してればまだいい方だが、結構な割合がちょっとズレた返答をする。
というかいつもの「キーワードを拾って自分の話をしだす」奴が大半のようだ。そういう会話は、あまり美しくないし楽しくない。ちゃんとやり取りしていないからだ。
たぶんあの時のインタビュアーさんも、同じ言葉をたくさんの人に言ってきたんだろう。みんな自分の意見を話したいし、それを相手に興味深く聞いてほしい。会話の目的が自分が気持ちよくなるためになっているんだ。相手と2人で芸術を紡ぎあげることじゃない。
人とはそういうものだろうと俺は絶望と共にそう認識することにする。せめて自分だけでも人の話をちゃんと聞いてあげたい。
