やじろぐ7

40代半ばの妻子持ちがゲームしながら解脱を目指すブログ

給食で出たアイスクリーム

あれは中学一年生の時だった。ある日、給食で、アイスクリームが出た。俺は給食が好きだった。牛乳とオレンジジュース(テトラパック)が出たら同時に飲むのが好きだった。当時のメニューは攻めたものも多かった気がする。たこ焼きとか出てた。

アイスクリームが出たのはそれが最初で最後だった。それは、一般的なカップのアイスではなく、直方体で、銀紙に包まれていた。今で言うとバターやチーズが銀紙に包まれて箱に入っているような、あれの小さい形ものだった。

俺は思った。「これは最初に食べないと溶けてしまうのではないか?」そして俺は「いただきます」の後、真っ先にアイスを食べてしまった。それを見ていた、ひょっとしたら正面に座っていたかもしれないが覚えていないのだが、とある女子が「ああ、最初に食べたら、いけないんだよ!」と俺を咎める口調で言い出した。

彼女は別の小学校から進学してきて、中学で初めて知り合った子だった。少しだけ好意的な言い方をするならば「賑やかな」子だった。正義感が強くて、ルールを守る正しさを持っていた。そう、デザートは最後に食べるもので、それを守ろうと思っていたはずだ。もちろんアイスクリームは美味しいのはわかっているし、最後に食べるのを楽しみにしていたはずなのだ。そんな時に、目の前の男子がいきなりアイスクリームをパクッと食べた。ルールも順番も行儀もくそもない、自分ばかり先に食べている。そりゃあ、咎める言葉も出るはずだ。

俺は「だって溶けるじゃん」とだけ言って、あとは普通に給食を食べた。うるさいなあ、という印象しか無かった。その女子は周囲に「◯◯君がアイスを最初に食べた」と訴えていたが、苦笑いしか返ってこなかったから、それ以上は特に何も言わなかった。

食事が進んで、俺以外の皆がアイスクリームの包みを開ける時がきた。その時だけは俺は除け者である。当たり前だ、食べるものが無い。しかし、俺の予想は当たっていた。果たして、皆のアイスクリームは案の定、溶けていたのだ。食べにくいまま何とか口に入れた皆は、件の女子も含めて「先に食べるのが正解だったのかもねえー」と、俺の行動が正しかった事を認めたのだ!

行儀は大事だし、デザートは最後という価値観はもちろん俺にもあった。だが俺はその時、合理的に行動したかったのだ。その時一番良い結果のために、行儀を破ってでも自由な発想で一番良いと思う行動した。

と思っていた。
だが、しかし。

ほんのさっきまで、その時の事を俺は忘れていたのだが、ふと思い出して自分の行動を省みるに…俺は、間違っていた。32年も経てば色々な事情が変わるものだ。アイスクリームは最初に食べるべきではなかった。あれは途中で食べるのが正解だったのだ。その日の献立はもちろんもうわからないが、なにか副菜を食べてから、溶けないうちにその次に食べるのが一番良い行動だったと今ならわかる。

だって血糖値上がっちゃうじゃん(おじさん発言) デザートは最後に食べる、というのはテーブルマナーの問題ではないのだ。その方が健康に良いのだ。それこそが合理的な食順だからこそ、そう定着して、受け継がれてきたのだ。俺はその歴史を直視するべきだった。デザートは、少なくとも最初に食べるものではない。

あの時のあの子に謝りたい。目の前で美味しそうにアイス食ってごめん。次は一緒に食べよう、溶けないうちに。次なんて無いんだけど。